ラップランド大学 国際文化学科4年 秋田桃花 <4号 2023年3~4月>

Primary school professional experienceは私が一番楽しみにしていた講義でした。学生は実際に約4週間(1週間Observation: 観察、3週間Teaching)フィンランドの小学校で教育実習を行います。私が行った学校は、小学校・中学校・高校が一緒になったとてもユニークな形の学校でした。私は今回3年生1クラスの子どもたちと一緒に、主にEnglish英語・Math 算数・P.E. 体育(小学3年・5年)・Religion宗教(小学3年・4年)の授業を担当しました。学校は通常朝8時からで、昼食は小さい学年から食べ始めるので私のクラスは10時半からでした。フィンランドはキシリトールの発祥地ということもあって、食後には一人一人に歯にいいチューイングガムのようなものが配られます。1日の授業は大体早くて11時45分、遅くても14時には終わります。先生も私もほとんど生徒と同じくらいのスピードで帰宅していました。

講義はもちろんフィンランド語でしたがクラスの生徒は驚くほどに英語ができたので、分かりにくい所は先生が英語をフィンランド語に翻訳してくださり、ほとんど英語で授業を行うことができました。中にはとても英語が流暢な生徒もいて、みんなに私の英語を翻訳してクラスメイトに伝えてくれました。とはいえフィンランド語で積極的に生徒と会話し、英語がうまく伝わらなかった時などはフィンランド語を交えて教えるなど、試行錯誤してなんとか全てやり遂げました。生徒たちはとても好奇心旺盛、想像力豊かで圧倒されました。

授業の進め方や活動内容などは、事前に全てのクラスの先生と話し合って計画を立てます。フィンランドでは国が決めた教育カリキュラムは決まっていますが、要件を満たすことができれば授業方法やスタイルなどは極めて柔軟で自由です。そのため、先生ごとに授業の進め方や教え方が全く異なります。私のクラスは生徒が主体となって様々な視覚・触覚教材を使って学習するという授業スタイルでした。全てをここに書くことはできませんが、例えば1週目は早速ハリーポッターがテーマとなった授業が行われ、いろいろなタスクをこなしながら学校内を駆け巡るというなんとも楽しくクリエイティブな学びを目の当たりにして衝撃を受けました。毎週金曜日はOutdoor classといって、みんなで自然の中で勉強し、お昼ご飯も外で食べます。先生は、「これらの授業方法は準備時間と労力が普通の倍必要だけど、生徒が実際に頭と手を動かして実践的な学びができる。それに私自身も授業をしていて楽しい。」とおっしゃっていました。本当に教師の鏡だと思いました。

光と影
光と影。(理科)
3匹のヤギとガラガラドンの劇
3匹のヤギとガラガラドンの劇。(英語)
漢字の練習の様子
漢字を練習しました。(日本文化)
生徒が描いた奈良の大仏の絵
生徒が描いた奈良の大仏の絵。(日本文化)
ハリーポッターがテーマの授業
ハリーポッターがテーマの授業。(総合の授業に近い)

担当した教科について:体育・宗教・算数のみ

1.体育   体育の授業では日本と異なり、生徒の運動能力よりもActive Participation 自発的な参加が重要視されます。そのため授業作りは男女問わず誰もが平等に参加できるということをモットーに考えました。学生の中には恥ずかしかったり、内容が難しかったりして上手く授業に参加できない子もいました。そこで私はグループでの活動を増やし且つ運動が得意な子には新たな難易度の高いタスクを、難しい子には少し難易度を落としたものを与えて、生徒の「できた!」という達成感を自信に繋げることができるように工夫しました。そうすると、これまでシャイで授業に不参加気味だった子が、「見て見て!こんなことができるようになった!」と教えてくれるまでになりました。生徒の大きな成長が見えた時は、本当に泣きそうになるくらいの嬉しさと達成感でいっぱいになりました。

2.宗教   宗教の授業では小学3年生と4年生のクラスを担当しました。自分のクラスは毎日一緒にいるのでどのような授業の方法が子どもたちに適しているのか知っていましたが、4年生とは関わりがあまりなかったので、1回の授業観察で特徴を把握し分析しました。授業の内容は3年生と4年生で同じでしたが、生徒たちの傾向に合わせてクラスごとに内容を少し変えました。具体的には3年生の授業では実際にグループでの話し合いや、手や絵具などを使った活動を7割にし、且つだらけることなく生徒の集中力を常に保持できるよう、間に日本文化についての説明を挟みました。4年生は活動よりもグループで考えたり、質問コーナーを設けたりして、ディスカッションに重きを置いて授業を行いました。とはいえ4年生の授業は1時間しか確保できなかったので少し残念でした。

3.算数   算数では3つのグループ(私・先生・アシスタントの先生)に分かれて、生徒はそれらをグループで回っていくというユニークな授業体制でした。学ぶ内容は一緒でもグループごとに使う視覚・触覚教材が異なるため、生徒は3つのステーションで学んだことをリンクさせながらより深い学びを手に入れることができます。教室の環境はインクルーシブなので生徒の中には学習が困難な子や集中力が持たない子など、様々な子どもたちが一つの教室で学びます。アフタースクールという授業で、ついて行きにくい生徒のために先生が少数で一時間ほど勉強する時間も設けていますが、もちろん通常の算数の時間はみんな一緒に学習します。授業の際にそれらの生徒のサポートや集中力保持に努めながらも、他の生徒のサポートや指示も同時に行うということがとても大変でした。

ここで気づいたのは、どんな生徒にも長所や得意な分野が絶対にあるということです。たとえ先生が、この子はこういう問題を抱えていて、立体を捉えたり形を描いたりすることがほとんどできないのだとおっしゃっていても、必ずできるものはあると思いました。私はそれを信じてそれぞれの生徒の隠れた可能性を掘り起こすよう、教え方を変えながらアプローチしました。そうすると、今まで解けなかった図形の問題が少しずつ解けるようになり、終わりの方では自分でやってみたいと生徒の主体性を引き出し、達成感と自信を与えることに成功しました。体育の時と同様にとても嬉しかった事を今でも覚えています。この授業を通して、生徒の真のサポートとは答えを丸々教えるということではなく、生徒が自ら解くことができるように道を作ってあげることだということを身に染みて実感しました。

4週間の小学校教育実習を終えて

4週間の長いようで短かった実習を終えて、学んだことや経験したことはここに書ききれないほど大量でした。朝5,6時に毎日起きて学校に行ったことが今では懐かしいですが、経験したことは全てメモし、記憶に強く残っています。前半の2〜3週間は小学校に昼まで居て、そこからそのまま大学に授業を受けに行き、帰ったら課題と次の日の授業準備ととても忙しかったですが、なんとか両立させることができました。私にとって初めての教育実習がフィンランドだったので不安でいっぱいでしたが、その不安を消し去るほど楽しく充実していました。帰国後、日本の小学校への訪問も機会があれば挑戦してみたいです。

この期間の中で自分の得意・不得意、好きなことや将来のキャリアなどについて具体化させることができました。その他気づいたことや面白いなと思ったことは自分の中で留めず、他の学生と共有していきたいと思います。

Arctic Pride Week : Parade

フィンランドで行われるArctic Pride Weekとは、北欧のLGBTQ +文化を支援し強化する期間です。この週には地域、国内、さらには国際的にマイノリティーに関するトピックについてイベントやパレードなどを通して考えます。今回参加したパレードでは、非常に多くの人々と一緒に人権を訴えながら街を練り歩きました。LGBTQ +だけでなく、全ての人々に対する人権の尊重を求めてこれらのイベントが行われました。改めてこのような問題について考えることができ、とても良い経験でした。

パレードの様子
虹色は多様性を表します。
図書館前の旗
図書館の前にある旗も虹色です。

フィンランドの行事 : Easter, Vappu, Eurovision

イースターは約1週間続き、子供達は伝統的にpajuという木の枝を近所の家に配り、代わりにお菓子を貰います。Pajuをプレゼントすることには健康や幸運を祈るという意味が込められています。また卵の形をしたチョコやMämmiというライ麦を甘く煮たものを食べます。小学校ではエッグチョコを巡って宝探しをするという行事もありました。

Mämmi
Mämmiを小学校で食べました
Paju
近所の子どもからもらったPaju

VappuとはLabor Dayとも呼ばれ、この日までの1週間は一年で一番大切なStudent Eventとも言われています。分かりやすくいえば日本でいう勤労感謝の日のようなものです。伝統的Jätkän patsasと言われる銅像に帽子(高校卒業時にもらう帽子)を被せます。

MunkkiというドーナツやSimaと呼ばれるレモン・砂糖・イースト・水を混ぜて発酵させた飲み物を飲みます。

MunkkiとSima
Vappuの日に食べたMunkkiとSima。
Jätkän patsas
大勢の学生がJätkän patsasの周りに集まる。

Eurovisionとは毎年この時期にヨーロッパで開催される音楽コンペティションのことです。今年はとてもおめでたいことにフィンランドからはKäärijaが決勝へと進みました。街や国一帯が応援モードに変わっています。ファイナルは土曜日に行われるので、是非優勝してほしいです。

新たな趣味・春の訪れ

気温が上がってきて春らしい季節になってきました。とはいえ5月の頭に雪が降ることもあり、まだ完全な春とは言えなさそうです。鳥や植物が少しずつ姿を現し始めたので、天気の良い日は朝早く起きて散歩をし、それらの写真を撮ることを新たな趣味として楽しんでいます。野うさぎやリスの毛皮も春仕様に変わってきました。勉強ばかりして部屋に篭るのは勿体無いので、極力外に出るようにしています。数日前からアイスカーが動き始めたので、久しぶりのアイスを堪能しました。

Turdus pilarisと呼ばれる鳥
Turdus pilarisと呼ばれる鳥。
フィンランドのつくし
フィンランドでつくしを発見しました。

最後に

留学も後半に差し掛かってきました。あと1ヶ月半ほどで留学が終わってしまうと思うと少し寂しいですが、同時に今まで全て全力で挑戦してきたことに満足感と誇りを感じています。私は大きく昔の自分と比べて成長し、そして強くなりました。厳しいですが、正直留学に行くということがゴールではないですし、10ヶ月間留学したからといって確固たる何かが得られる確証はありません。それに期間どうこうの問題では全くないです。本当に大切なのは、留学中に何を考え、選び、どのように行動するか、その主体性が自身の成長に、また充実した留学生活に繋がると思います。

そして今留学に行こうか迷っている人やこれから留学する人には、留学期間や留学に行くことだけに執着しないで欲しいです。是非自分の3ヶ月や10ヶ月という貴重な留学生活を海外旅行やただの経験で終わらせないように、有意義に過ごす事を考えてみてください。そうすると、きっとその留学は素晴らしく、個人の大きな成長や変化に繋がると思います。これが今まさに留学を終えようとしている私のリアルな感想です。